学校の授業は午前のみで、午後は基本的に自由だったので留学中はとにかくいろいろなところへ出かけた。
学生寮に住むことになるので、身の回りの生活用品や雑貨等は全て自分でそろえないといけない、全てを日本から持ってくることは不可能なので、スーパーやホームセンターへ買い物へ行くのだが、中国へ来たばかりの僕に取っては、これがかなり難易度が高かった。
当時はまだまだ国営デパートのようなたたずまいの商店も残っていたので、買い物をするためには店員のおばちゃんにカウンターごしにあれを見せてくれ、それを取ってくれと頼まないといけないうえ、サイズやら色やら、用途等ありとあらゆることを説明してやっと目的のものにありつけるというので、必ずしも自分が欲しいと思っているものが出てこなかったとしても、気が小さく、満足に中国語を話せない僕は、おばちゃんの押しの強い態度に負けて、笑顔でありがとうと答えるしかなかったことが多かった。
覚えているのは、タオルを買おうとして出てきたタオルの生地ががさがさで店員のおばちゃんに「このタオルの生地はちょっと粗いので、もうすこしなめらかな肌触りのタオルはないのか?」と聞こうとしたのだが、この粗いという中国語の発音が「マオ、mao」というので、一生懸命このがさがさのタオルを指さしながら「マオ、マオ」と叫んでみたところ、なぜかキティーちゃんのタオルが出てきたことがあった。
そういえば猫も中国語では「マオ」というので僕の発音とイントネーションが悪かったらしい。なめらかな肌触りのタオルを希望して、キティーちゃん柄のタオルが出てくるという結果に釈然としない思いをいだきつつも、自分の中国語のレベルの低さをなげきながら仕方無くキティーちゃんのタオルを買って帰ってきたわけだが、後から他の留学生に聞いてみると、普通のタオルは3元くらいで買えるのに、そのキティーちゃんタオルは輸入品で50元もしたことを思えば、これはかなりの授業料だったことになる。そういえば店員のおばちゃんがほくほく顔だったのは、理由のあることだったのだ。
それでも、午後の街でのチャレンジは中国語の上達にかなりの貢献を果したわけだから、留学生にとってはどんな人でも貴重な語学の先生になり得るなあと、そのときは思った。
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